乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「大丈夫。あんなナメた真似、二度はねーから」

おでこに口付け。シニカルに笑った気配。

きっと出かけるたび護衛もついて、今までみたいに榊に『ちょっと買い物つきあってよ!』なんて、軽々しく言えない。

「・・・うん」

顔を埋めて声だけ甘えて。笑えてないのを隠して。

「織江さんと(みやび)ちゃん達にも会いたいし、もうすっごいユキちゃん欠乏症ー」

「じゃあ藤代さんに相澤代理のリスケ頼んどく。亞莉栖なら毎晩どーぞ?お姫サマ」

襲撃の後始末だってまだ残ってるはずなのに。そんなことはおくびにも出さないで、あたしファースト。泣きそう。

いつか榊に言われたとおり、臼井宮子の一番の覚悟は守られること。ダレカヲ犠牲二シテ、スルクライナラ、放ットイテ。・・・言えるわけない。

あたしが受け継ぐのは一ツ橋組を支える臼井の財力と、支えてくれる人すべての人生。だから自分を粗末にできない、裏切れない。

「ほんとあたしを甘やかすよねぇ」

「遺伝だろ?」

哲っちゃんの息子だから筋金入り。頭の上で聞こえたクスクス笑い。

体を寄せてくっつけば、あやすような手付きで髪を撫でられる。これからも何も変わんなくていいって、ハチミツに漬かってていいって、笑ってくれる。

でもそれって自分だけ安全なビン詰めにされてるみたいで。あたしを守ることしか考えてない真に戻ってる気がして。温もりに包まれながら心細い気がした。

あと二週間がすごく長く思えた。・・・いちばん待ちわびてるのは、あたしかも知れなかった。




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