乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
真が企んだサプライズで、退院するのをまるで知らなかったあたし。

お昼ごろだった。哲っちゃんちから呼び出されて実家に向かったら、みんなそろった客間に黒スーツ着た病み上がり男が正座してた。それが一週間前のこと。

言葉に詰まったくらい嬉しかった。見慣れた不愛想な顔はまだほっそりしてたけど、目力は全然弱ってなくて心底ほっとした。

『総代、組長、若頭、大姐さん、十分休ませてもらいました。・・・ありがとうございました』

あんな風に折り目正しく頭を下げた姿は初めて見た。あらためてお父さんが娘を助けた男気を称えたとき、榊と一瞬視線がぶつかった。

『俺はその為にいるんで、・・・何度でも盾になります』

おじいちゃんは『見上げた度胸だ』って褒めちぎった。あたしは黙ってた。じゃあお願いね、なんて死んでも頼まない。感謝なんてしない、絶対。

やっと戻ってきたのに。
手放しで喜べない自分がもどかしかった。

「まだ治りきってないくせに筋トレはやめてよねっ、傷口が広がったらどーすんの?」

思い出しながらついついトゲを刺す。

「・・・そんなヘマしねぇよ」

「そういうセリフはねぇ、サイヤ人にでもなったら言いなさいよぉ?」

「みーやこ、あんまりイジメないでやって。病院暮らしの辛さはオレもよーく知ってるからさ」

反対側から真の仲裁が入って頭をぽんぽんされた。
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