乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
ウィスキーだかバーボンだかのロックを煽ったシノブさんが、ニンマリ口角を上げる。

「いちいち背負(しょ)いこんでりゃキリねぇよ、さっさと忘れちまえ。どっちも生きてんだ、いいじゃねぇかそれで」

歯に衣着せない直球玉。でもシンプルにど真ん中。

「消えないその傷は・・・男の矜持と誇りの証です。宮子お嬢さんに誇ってもらえるなら榊の本望だと。・・・酷かもしれませんが」

「相澤さん・・・」

「幹部昇進の話も出たんだが要らねぇとさ。そんなもの欲しさに命を張ったと思われるのは、心外だろうよ」

哲っちゃんが口の端でやんわり笑んだ。

一ツ橋組を支える大黒柱の三人の言葉がどれも、受け取った掌に確かな重みを残す。安っぽい慰めは口にしない。染みて痛いくらいが、今のあたしにはちょうどいい。

「そういや誕生祝いの招待状が来てたんじゃねぇか?二回も歳食う気かミヤコ」

「宮子のは今度が本番ですって。オレが八月二十二日なんで、色々まとめて仕切り直させてもらいますよ」

コケティッシュに笑いをくぐもらせた志信さんへ、スツールを半回転させて振り返った真が涼しげに。

「ま、存分に楽しませてくれや!」

「ほどほどにしねぇかい。・・・相澤、志信が羽目を外しすぎねぇようにな」

「承知しました」

いつだって我が道を征くシノブさん。溜息吐いた哲っちゃんと冷静な相澤さん。
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