乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
なんで。
なんで。
なんであたしの大事なものばっかり・・・!!

奥底からせり上がってくる真っ黒い塊。悲しいを通り越した、声にならない絶望の悲鳴を上げる。

もうやめてよ。
だれも傷つけないでよ。
まだ足んないの?
なにが欲しいの?!

「っっ・・・ッ、ッ」

嘔吐(えず)きそうになったあたしの背中を、哲っちゃんの大きな掌がさする。

「思い出せたかい。・・・だったら榊がうっかり三途の川を渡らねぇように、お嬢が呼び戻しちゃくれませんかね」

その言葉がなかったら。あたしはまた同じ過ちを繰り返しただけだった。真にも顔向けできなくなってた。闇に堕ちかけたのを哲っちゃんに呼び戻された。

息を吐く。鼻水をすすり、泣き濡れた顔を手の甲で拭う。きっとお化粧も流れちゃったひどい顔を上げて、哲っちゃんにすがりついた。

「おねがいっっ、榊のとこに連れてって・・・!」

「上出来だ。・・・車を回させるから急げよ?」

おでこにキスを落とした哲っちゃんは、淡く口角を上げ部屋を出て行く。

あたしは自分で両頬を思いっきり叩くと、肌襦袢を脱ぎ捨て、クローゼットから動きやすい服を引っ張り出す。それから顔を洗ってメイクし直した。

鏡の中のあたしは余裕なんて欠片もない。ちょっとでも気を抜いたら、だらしなく涙栓から水漏れしそう。
< 4 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop