乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「起きたことはしょうがない。次を考え続けるだけだよ、同じ轍を踏まないように」

温かくて厳しい。ここって時にいつだって、あたし達に道しるべをくれる。

「分かってるユキ姉。二度も俊哉を盾にする気はねーし、宮子を鳥カゴに押し込めるのは死んでもねーから」

真の掌があたしの頭の上に乗った。

「我慢なんかしなくていーんだよオマエは」

がまん。・・・は、してないよ。

「藤代さんから聞いた。オリエさんからの誘い断ったろ?」

見透かしたように、こっちに流した眼差しの奥は笑ってなかった。

泳いだ視線が一瞬、カウンターを挟んだ藤さんとぶつかって。無理やり誤魔化す。

「だってほら、榊はまだ完全じゃないし」

「・・・ほっとけ、車くらい出せる」

反対側からも無情な弾が飛んでくる。

「でもさ」

「大丈夫かどうか、決めるのは俊哉とオレで宮子じゃないよ」

もう一回ぽんぽん。答えに詰まった。

「いいから顔見せてオリエさんを安心させてやりな。オマエにしかできないんだからさ」

織江さんがどれだけ心を痛めてくれたか知ってた。あたしを気遣って、大事な子供達より優先してまで、二人きりのランチに誘ってくれた。

その優しさに慰められたい気持ちと、榊を戦場に戻す勇気がせめぎ合った。せめぎ合って自分が楽な方を選んだ。

榊のケガを言い訳に使って、織江さんの思いやりを二の次にした。紗江だったら来世まで絶交されるとこだった。後悔が色を変えて広がってく。
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