乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
優しいユキちゃんは可愛い子ほど容赦なく谷底に落っことす。落っことされたあたし達が這い上がってくるのを見守りながら、力尽きる前に必ず手を差し出してくれる。

もし。どうしてもあたしと榊の思いが行き違って、分かってるつもりだけど分かりたくないこともあって、分かってほしくなったら。

「ケンカしていいって。する?」

「・・・勝負になんねぇよ」

「かもねぇ。あんた強いんだもん」

心がね、筋金入りなんだもん。正直に笑う。

「負けたらユキちゃんの胸で泣くから、手加減しなくていいけどね?」

こっちを見た榊は、うんざりとも不機嫌ともちがう変な顔して「知るか」とそっぽ向く。

あたしが悪くて怒鳴られたり、あたしが誤解して怒ったり、でも本気のケンカは一度もしたことない。

ねぇ榊。本気でぶつかって傷だらけになってそれでも、なんにも壊れない自信だけはあるよ。胸の内で呟いた。

心地よく飲んで食べて喋って。最後はカウンター席で哲っちゃんと相澤さんに挟まれながら、うっとりイケオジ中毒に侵された。あっという間に日付けを飛び越えてた。

どれもこれも榊がいなかったら、誰がいてくれても何をもらっても無意味だった。

「じゃあなミヤコ、また美味い酒飲もうや」

ニンマリ口角を上げたシノブさんが、あたしの頭をくしゃっと撫でる。
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