乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
水の流れが途切れ、陶器が触れ合う音が小さく聞こえた。男言葉のユキちゃんはちょっとだけ空気が変わる。

「あのまま立ち直れずに潰されてたら、宮子お嬢は見限られたのかもしれない。もっと言えば、箱入りの次期当主と本家に見切りをつけて、二の組も三の組も離反したかもしれない。共倒れはごめんだからね」

「ユキ姉、ま・・・」

真がなんか言いかけたのをやんわり遮って続けた。

「志信達が助けるって言ったのなら意味をちゃんと考えて、その手を無駄にできないよ。何があっても」

優しい矢がいくつも、めり込んだ。自分なりに葛藤して決めた覚悟がちっぽけに見えたくらい、ユキちゃんはシビアにリアルを突き付ける。

めり込んだ矢に目を醒まされた。真も哲っちゃんもおばあちゃんも、あたしがあたしの足で進もうとしてるのを急かさないでくれて、無条件で支えてくれて。とことん甘いんだって今さら気付いた。

取り巻くほかの人達は、あたしが当主になりえる器かどうか、一ツ橋組の行く末をいつだって見定めてる。助けてもらうには資格がいる、応えられるだけの臼井宮子になんなさいって・・・、ユキちゃんはそう言ってくれたんだと思う。

「・・・うん。考えて考えて、相澤さんやシノブさんを裏切らないあたしになる」

「うん。なれるはずだよ宮子お嬢なら」

眼差しが綺麗に弧を描いて、柔らかく笑み崩れる。魔法をかけてくれる。

「大丈夫」
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