乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
しばらくして迎えの西沢さんが姿を見せると、真が思い出したように口だけで笑った。

「ユキ姉にちょっと話あるから俊哉と先に行ってて」

取ってつけたみたいな笑い方。たぶん仕事がらみ。

「じゃあユキちゃん、来られるときにまた来るねっ」

「待ってるからいつでもいらっしゃい」

にっこり笑顔のユキちゃんに手を振り、西沢さんと真を残して、お店の前に横着けされたミニバンの後部シートに乗り込んだ。

前に回った榊は主役なのにノンアルコールで運転手で、いつもと変わんない。変わってない榊がちゃんといるのがなんだか切ない。

急に色んなものが込み上げたのを、出っぱった後頭部に向かってわざとお節介ぶる。

「具合わるくない?大丈夫?ムリしてない?」

「ねぇよ」

「ねぇ榊」

畳みかけて訊いた。

「あの約束、おぼえてる?」

どれの、って言ったらしばらく口きかない。

「・・・臼井より先には逝かねぇよ」

「あんたの人生あたしがもらったんだから、勝手に使いすぎないでよ?」

「お前のために使うのは俺の自由じゃねぇのか」

「そうだけど、ほんとにゴメンだからね、起きないあんたを待つのなんて絶対・・・っ」

零れた恨み言と本音。

「榊がどうにかなったらあたしは」

すがるように、祈るように。

「もうどこにも行かないで、あたしから離れないでよ」
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