乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
こんな言葉の鎖、あっけなく引きちぎられるのを分かってて巻きつけてく。もっと自分を惜しんでよ。命懸けるって、いつでも死ねるってことじゃないでしょ?! 心の中で吠えた。

「・・・・・・余計な心配してねぇで、真と自分のことだけ考えてろ。俺がお前を裏切ったことあるかよ」

「ない、けど」

前を向いたまま微動だにしない榊がどんな顔してるか知りたかった。素っ気なかったのは変わんない気がしたのに、分かんないけどなんだか声がなんとなく、・・・なんとなく振り向かせて確かめたかった。

「さか」

「ごめん宮子、お待たせ」

ちょうどのタイミングで外から開いたスライドドア。

「おかえり」

軽く言い直して、松葉杖ついた真が隣りにお尻を沈めるのを見守る。わけもなく榊が気になったのを頭の隅へそっとよけながら。

最後に色付き丸グラスの西沢さんが助手席に収まり、車が滑り出すと、抱き寄せられて頭のてっぺんにキスが落ちた。

「藤代さんから伝言、デートは来週の木曜だってさ。行きたいとこ、オリエさんと二人で決めな」

「まだ梅雨明けしないよねぇ。んー悩む~」

「アシは気にしなくていーよ、どこでも連れてく」

『どこでも』『どれでも』が真の口癖になった。

あたしに自由をくれようとするたび『もういいよ』って叫びたくなる。榊が“戦場”に戻りたがるたび、胸に刺さった棘が深く食い込んでく。

「ん・・・。ありがと」

でもユキちゃん。
笑わなくちゃね。
臼井宮子だから、あたしは。




< 48 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop