乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
ひとの心をのぞいた風に頭の後ろで聞こえたセリフに瞬間、息が止まる。驚きすぎて声も出なかった。柴犬柄のポーチに伸ばした腕ごと石になった。

「殺されかけたわりに元気そうだね。怖気づいて一生引きこもるのかと思ってたよ」

涼しそうに言ったのが誰か。織江さんを『結城』と呼ぶのは藤さんともう一人。

生きてた。だとしても日本には戻らないって思ってた。なんで。どうして高津(たかつ)(あきら)がここにいるの?!

頭の中はまるで走馬灯。真、相澤さん、藤さん、色んな顔がぐるぐる巡る。

目的はなに?たぶん織江さんには手を出さない、たぶん。女の勘。しっかりしなさい宮子、この男のペースに乗せられちゃ駄目・・・!!

お腹の底から訳のわかんない震えが来そうなのを必死でこらえ、ポーチを手に取ったふりで俯き加減に低く声を絞る。

「・・・高津さんこそ死にたいんですか、のこのことあたしの前に出てきて」

襲撃のことも今日のことも筒抜け。ほんとに厄介な男。・・・もしも本気で敵に回ったら。

「今の榊俊哉に俺をどうすることもできやしないさ。知らないの?このままだと君の番犬は、あっという間に棺桶に逆戻りだよ」

シニカルに笑んだ気配。

「みんな君に嘘を吐いてる。可哀想にね」
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