乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
嘘?かわいそう?

「なんです、それ。あたしが信じるとでも?」

冷静に言い放ちながら胸の奥がざらつく。こんな趣味悪いイヤガラセするひとだった?苛立ちと失望がせり上がってくる。

「本人に直接訊けばいい。彼に伝言を頼もうか、“いつでも手を貸す、ルナティックにおいで”」

「だからどう言うつもり・・・!」

「君には千也を助けてもらった借りがあったからね。ああ・・・Time is up, Miyako, see you again(時間切れだ宮子)」

流暢な英語に思わず振り返り、ウェーブがかった銀髪男と色付きグラスの奥で目が合った。刹那。力任せに肩を引き寄せられ、黒スーツの胸元に強かにおでこをぶつける。

「この女に用か」

頭の上で凄みを効かせた声がした。

「I just wanted to talk to a cute lady(話がしたかっただけだよ)」

「近付くな」

通じてない一方的な会話。異邦人を装って堂々と引き下がってった気配に、ハッとして体を離し目で追いかけた。見失った。・・・ううん逃がした。

「相手にすんじゃねぇよ」

榊が仏頂面で上から睨んでた。

やっぱり高津さんだって気付いてない。あたしも別人かと思った。二の組若頭、中根志信の補佐だった彼とはまるで違いすぎて。

「してない、なに言ってるか分かんなかったわよっ?」

握ったままだったポーチを棚に戻すと、誤魔化すように唇を尖らせ、そっぽを向く。
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