乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
真の首に腕を回し、離れてた時間を埋めるように唇を啄み合う。

久しぶりに羽根を伸ばせた気がして。でも真といるのが一番ほっとする。どんな『楽しい』もやっぱり敵わない。かな。

「仕事まだ終わんないでしょ?」

「ごめんな?このあと仁兄とちょっと出てくる」

「デザートいっぱい買ってきたって言っといて?」

「ん。帰ったら食うよ、こっちも」

甘い気配で首筋を吸われた。
言いそびれた。・・・高津さんのこと。

事務所を後にして、荷物持ちの榊と哲っちゃんちまでの小道を歩く。雨上がりの蒸した緑と土の匂い。

「今年の夏はすっごく暑いんだって。アパートに戻ったって日干しになるのがオチなんだから、あんたはこのまま実家(うち)にいなさいよー?」

半歩遅れてついてくる男にわざと焼くお節介。

だって高津さんに気付かないであたしを抱き寄せたとき。力は変わんなかったのに、ぶつかった胸板も閉じ込められた腕も、肉がそがれたみたいに硬かった。

ぜんぶ元通りになるまで、榊の『ほっとけ』は聞く耳持たないからね。

「臼井」

「拒否権ないからね?お嬢命令だからね?」

返ってきそうな返事に先回り。

「俺はもうお前に心配される価値もねぇよ」

足が止まった。予想してた答えと違いすぎて。
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