乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
1-1
「宮子お嬢さん、今日はこれで失礼します。あまり根を詰めないほうがいい。・・・織江(おりえ)もお嬢さんの体を心配しているもので」

「あたしは大丈夫だって織江さんに伝えてください。相澤さんも忙しいのにありがとうございます」

おもむろにイスから腰を上げた、一ツ橋三の組、若頭代理の相澤さんに奥さんへの伝言も託し、立ち上がって頭を下げた。

織江さんは優しい気遣いの人だから、どうかあたしのことでそんなに心を痛めないでほしい。無理に作った笑みを乗せて。

「・・・いえ。知らない間柄じゃありませんから当然のことをしているまでです」

「藤さんにも真を助けてもらってるみたいで、落ち着いたらお礼させてくださいね」

相変わらず極道とは思えない紳士ぶりで礼を返した相澤さんが、扉の向こうに見えなくなった。

こうやって顔を見せてくれる気持ちが心底うれしい。二の組のシノブさんも合間を見つけて寄ってくれる。すっごく心強い。

人の声がなくなると急に静か。規則的な電子音、表から遠く近くひびく雑多な音。あたしは気を取り直して、ローテーブルの上に置かれた手土産の包みを解く。

「ほら榊、まだ開けてないのにイイ匂い~っ。あんたもガマンできないでしょお?」

うなぎ割烹『倉科(くらしな)』のうな重弁当。前に相澤さんが連れてってくれたけど、ほんと美味しいから!これ食べたら、スーパーのなんて食べらんないから!!

お昼ちょっと前の時間を見計らって差し入れしてくれた相澤さんの思いやりが、胸と目に染みる。
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