乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
横を振り仰ぐ。卑屈には聞こえなかった。そう聞こえたら絶対に赦さなかった。幕を張ったみたいに不透明な黒い眼を下から見据えた。

「どういう意味?」

「穴がふさがっても元の体には戻らねぇらしいからな、心配するだけ無駄だろが。テメェのことはテメェでどうにかする」

淡々と。迷いも躊躇もない顔で。

「いつまで俺にかまけてんじゃねぇよ。跡目の仕事じゃねぇぞ」

ムダってなによ、仕事ってなによ。

「かまけて当然でしょ、あんたはあたしの」

「ただの弾よけだ。・・・このさき真の足の代わりもできねぇなら、俺はもうお前らと」

その先を聞きたくなかった。突き上げたのは怒りだった。口から吐き出すより前に腕を振り抜いて、榊の横っ面を力いっぱい引っ叩いてた。

「・・・あやまんないからねッッ・・・っ」

あっという間に視界が滲んでぼやけた。『悲しい』『口惜しい』が涙になって一気にあふれた。

「できるとかできないとか関係ない!!できなくたって榊は榊だよ・・・!!」

全力で吠える。細胞が軋んで千切れそうに。

「あたしをなんだと思ってんのっ?!!そんなことで親友やめるとでも思ってんの?!見くびらないでよッッ」

子供のケンカみたいな言葉で感情まかせに殴りつけ、脇目もふらず駆け出した。

ひりついた掌が痛かった。

心臓が裂けそうで痛かった。
< 60 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop