乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「いただき物なんだけどカモミールティーですって」

空調の効いた心地いい涼しさに包まれ、ダイニングテーブルに腰かけたあたしの前に、ガラスのティーカップが置かれる。

澄んだ琥珀色のホットティー。仄かにフルーティでさわやかな薫りごと、ひと口ふた口。そんなに乾いてた気はしなかったのに、じんわり奥へ奥へと染みわたってく。

「宮子ちゃんはアップルパイとタルト、どっちがいい?」

簡単なまとめ髪で薄化粧でも相変わらず綺麗なママが、ケーキ箱をのぞいてコケティッシュに笑んだ。どっちもテレビで紹介されたらしい人気店のだ。

気付けば、さっきまであんなに悶々としてたのが、頬っぺたが落ちそうなほど濃厚なチーズタルトにすっかり篭絡されてた。

「気持ちが落ち着いたんだったらよかったわ」

ティーポットから二杯目を注いでくれながら、“お母さん”の顔で微笑んだ瑤子ママ。

「何があったか聞くくらいしかできないけど、宮子ちゃんが話したいなら話してね」

甘やかされたい時に泣きつく相手は、ダントツで哲っちゃんだった。自分で答えを探したいとき、ママはただ優しく耳を傾けてくれる。

「榊、なんか言ってた?」

「悪いのは自分で宮子ちゃんじゃないって・・・それだけ頭を下げて帰ったわ」

「・・・思いきりビンタしたの、あたしなのに」

掌に、頬を打ったときの痛みとしびれがまだ残ってる。気がする。
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