乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
悪夢の襲撃から一週間経った。あたしと遊佐はマンションに戻らずに、広い敷地内に建つそれぞれの実家を行ったり来たりしてた。襲撃犯が初めからあたしを狙ってたのか白黒ハッキリするまで、臼井の家にいるのが一番だれにも迷惑かけなくて済む。

仁兄とはあれからまともに会えてないし、真も毎晩おそくまで帰ってこない。あたしのお守り役は哲っちゃんと瑤子ママが引き受けてくれたのか、独りきりになることはないけど、本音を言えばちょっと寂しい。・・・寂しいなんて口が裂けても言えない。

だってみんな榊のために必死だもん。体すり減らしてるんだもん・・・!

五つもあったお重のひとつを、玉手箱よろしくフタを開いた。香ばしいタレの匂いが鼻の奥をくすぐってくれるように、わざと手に持って榊の枕元に立つ。今は自発呼吸ができてて、酸素マスクも取れてる。

「ちょっと見てよ榊!こーんな身が厚くてふわっふわなウナギ、滅多に食べらんないんだからねぇ?」

短いなりにスタイリングしてた髪は寝ちゃってるし、無精髭も生えてて、すっかり人相が悪くなってる親友。

見せびらかしにきたのかよ。って不機嫌顔で、いつもみたいにあたしを睨まないの?

ベッドに横たわる榊は、うちと懇意にしてる病院に運ばれて一度は心臓が止まった。息を吹き返したのは奇跡だって院長先生から聞いた。でも目を覚まさない。

あんなにうるさい男がなにも言ってくれない。
< 7 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop