乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
愛してる男の未来を自分が奪ったとしか思えなくて、負い目に飲み込まれたあたしを真は徹底して赦さなかった。口もきいてくれなくなって、お見舞いの帰りは車の中で泣きっぱなしだった。

『助けてもらったら「ありがとう」じゃねぇのかよ』

真が欲しいのは『ごめんなさい』じゃない、償いなんかじゃない。目ェ見てちゃんと気持ちを聞いてやれ。・・・榊のあの言葉は今でもね、大切なお守りなんだよ。

「あたしがまたメソメソ泣いてると思った?わりと怒ってるからね?どこで寄り道してんのか知らないけど、このあたしをほったらかしなんてサイテーだからね?」

芝居がかって鼻を鳴らす。

「カッコ悪すぎて紗江(さえ)には黙ってんだから、きっとすっごく怒るから覚悟しなね・・・っっ」

涙声になったのを堪えきれずに、ちょっとだけ泣いた。

紗江には言わなかった。どれだけ心配かけて、やっとやっと親友を喜ばせてあげられた結婚式のあとで、襲撃されたなんて言えるわけなかった。

目を醒ました榊と四人でそろう日が絶対くるから。大丈夫。自分に言い聞かせてる。

「・・・ねぇ榊、あたしより先に逝かない約束だよ」

掛け布団の中をそっと探り、榊の手をやんわり包む。温もりはある。

「あたしのために生きてくれる約束、忘れたら針千本じゃ足んないよ・・・?」

その掌をきゅっと握りしめ、泣きながら笑った。

握り返してくれるんじゃないかって。いつまでも離せないで。
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