【移行予定】擬似的なシンメトリー
涼くんはわたしの言葉を睨みつける目で聞いて、一旦目を逸らすと、頭を掻きながら今日で一番大きく長いため息を吐いた。
「はあ〜……」
数年分のため息をまとめて吐き出すつもりなんじゃないかと思うくらい長い息を吐くと、今度は無に等しい表情でわたしをガン見してきた。
思わず唇を噛みしめてしまったのは、無に等しい涼くんの表情に怒りが見えたから。
「昔っから恭くん恭くん。そんなに恭花が好きならほかの男の家にノコノコ上がってんなよ」
「わたし、別に恭くんが好きなんて言ってない」
「じゃなんで恭花のためにこんなとこまで来てんだよ」
「恭くんが立派な人だからだよ。応援したいと思うのは、そんなにいけないこと?」
「立派ねぇ……。芸能人だろあいつ。どうせ裏でアイドル食いまくってるよ」
音のなかった空間に、弾けるような音が響き渡った。
気づいたら、卑しい表情を見せる涼くんの頬を叩いていた。
手のひらが熱くて痛い。
この痛みがわたしにわずかな後悔を生み出すけれど、それでも、好き勝手言われた侮辱をこのまま放置することはできなかった。
「恭くんのこと知らないくせに、悪口言わないで」
涼くんは叩かれた頬に触れて、口角を上げた。
「知ってるよ双子だから。あいつは俺の双子。どんなに見た目を着飾ったって所詮は俺と同じなんだよ」