【移行予定】擬似的なシンメトリー
そう言ってベッドに手をつくと、空いたもう片方の親指でわたしの唇を拭った。
「あいつはおまえ以外の女にこういうことしてるよ。想像してみろ」
怒りが自分の中にまだ残っていたせいか涼くんの言葉が素直に耳に入ってこなくて、そのせいで反応が遅れてしまい、気づいたときには涼くんの唇が自分のそれに触れていた。
触れていたと言うと優しい感じがする。押しつけられていた。
離れようとしたわたしの頬を、涼くんがとっさに両手で押さえ離れないようにする。
それから完全に捕まえたと思ったのかわずかに唇を離して、また口づけをする。離して口づけをする。
それを何度も繰り返し、初めは触れるだけだった口づけがやがて舐めるような生々しいものに変わっていって、ふとしたタイミングで舌が唇をこじ開けて入ってきた。
「……んっ……」
ずっと我慢していた声がついに漏れてしまった。
「想像した? 恭花がほかの女とこうしてるとこ」
涼くんはそれだけ言うと、わたしの返事を待たずしてキスを再開させた。