【移行予定】擬似的なシンメトリー
かと思えば、警戒心のかけらも持たないで人の家に上がり、そしてまた恭花の話。
痛い目みればいいんだと無理やりキスして追い返したのに、翌日にはけろっと現れる。
人のこと振り回しておいて、自分は恭花ばかり、俺の気持ちには気づかない。
だから俺は、あいつごと過去を捨てたんだ。
「帰る」
「絢音ちゃんを探しにいくの?」
立ち上がった俺に友達が含み笑いを見せながらそう訊いてきたので、「ちげーよ」とだけ返して、夜を迎えようとしている街に繰り出した。
絢音は、夜はこの街に足を踏み入れないようにしているみたいだけど、甘いんだよ。
そういう昼間なら大丈夫だろうと高を括っている獲物を狙うくそ野郎がこの街にはいっぱいいるんだ。
来てないならそれでいいと、街をひと回りだけすることにした俺の耳に艶っぽい女の声が届いた。
「……ゃっ……」
それは消え入るような声だったから下手したら聞き間違いと思ってもおかしくなかったけど、その可能性もあるかもしれないと頭の片隅に思い描いていた俺にとって、聞き流せない声だった。