【移行予定】擬似的なシンメトリー
たった今、恭くんがゲスト出演した刑事ドラマの再放送がテレビで流れていて、わたしは隣に本物がいることも忘れて夢中になっていた。
恭くんは顔だけじゃなくて演技力もあって、このドラマがリアルタイムで放送されたとき、恭くんの芸名と役名がトレンド二、三位を取ったくらい注目を浴びた。
物語の中盤まで容疑者として主人公の刑事たちを引っかき回すのだけど、終盤で別に犯人がいることがわかり、最後の最後で本音を零した恭くんの泣き演技は思い出しただけでも泣きそうになる。
恭くんは自分の演技を見られるのが恥ずかしいみたいで、自分がいる前ではやめてと言うんだけど。
「それで、話ってなに?」
今日は恭くんに「話がある」と言われて、我が家の隣にある五十嵐宅にやってきた。
家族はだれも帰ってきていなくて、リビングにはわたしと恭くんだけ。
気晴らしにと思って点けたテレビを消してしまったので、静かな空間に恭くんと取り残される。
わざわざ話があると呼びつけられることってそんなにないから、なんか緊張しちゃう。
「弟の涼花、覚えてる?」
どうやら話は涼くんのことらしい。ちょっと残念なような、もっと身が引き締まるような。