【移行予定】擬似的なシンメトリー
うちの親も涼くんの事情は知っているので「いつまでもうちにいてくれて構わないよ」と言い、大学生になってひとり暮らしを始めたお兄ちゃんの部屋を明け渡すのに了承してくれた。
「お兄ちゃんが出ていって一年以上経つけど、長期休みには帰ってきて掃除してるからきれいだと思うよ。パジャマとかも自由に使っていいし」
涼くんはずっと口を開こうとしない。怒っているわけではない無表情で、たまに申し訳なさそうに俯く。
さっきのことを気にしているんだろうか。
「涼くんのせいじゃないからね。わたしが勝手に行って危ない目に遭っただけだから。気にしないで」
そう言っても、涼くんの顔が晴れることはない。
「もしわたしに申し訳なく思ってるなら、もうあの街には近づかないって誓ってほしい」
「恭花のために?」
涼くんがようやく口を開いた。
「それもあるけど、わたしは涼くんが心配だよ。傷だらけになってもだれにも見つけてもらえないようなところにいてほしくない」
「……わかった」
その返事を聞いて、やっと胸を撫で下ろせた。