【移行予定】擬似的なシンメトリー
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翌朝、目が覚めて顔を洗おうと向かった洗面所で涼くんとばったり出くわした。
「涼くん、おはよう。お目覚めはどうですか?」
「ぼちぼち」
「そっか。いずれ慣れるといいね」
「いつまで泊めておく気だよ」
「いつまででもいいよ。なんなら柏井家に養子に入る?」
「入らない」
涼くんは冗談に乗ってくれることなく、洗面所をあとにしようとした。
ふと、足を止めて振り返る。
「婿養子にならなってもいいよ」
そのひと言を、この狭い洗面所に残して去っていった。
婿養子って、男の人が妻の親と養子縁組を結ぶことだよね。
……妻? それってまさか、わたしのこと──なわけないよね。
涼くん、いつからそんな冗談を言うようになったんだろう。
変なのー、とヘアバンドをつけて露わになった自分の顔を鏡で見たら、頬がだらしなく緩んでいて、こっちのほうが余程変だった。