【移行予定】擬似的なシンメトリー

意思に反して涙を流していたらしく、わたしはそれに気づきもしなかった。

涼くんはわたしの前まで歩み寄って、悲しそうな顔して見つめてくる。


「前に恭花のことは好きなわけじゃないって言ってたよな」

「うん」

「もう一度訊くけど、恭花が好きなんじゃないの?」

「好きじゃない……」

「じゃあ、だれのために泣いてるんだよ。だれのための涙だよ」


わたしは、涼くんのなにもかも見透かすような目から顔を背けたくて俯いた。


恭くんは隣に住む幼なじみで、優しくてかっこよくて、絵本の中にしかいないと思っていた本物の王子さまだった。

そんな恭くんをわたしは慕っていた。

夢を追いかける姿が眩しくて、夢を追い続ける恭くんをそばでずっと見守っていたい。

恭くんが望みを叶えられるなら、わたしは恭くんのためになんでもする。


ふたりで見たドラマにキスシーンがあって、「いつか恭くんもするのかな」とひとり言として呟いたとき、「必要ならするけど、そのときは相手役を絢音だと思ってするよ」と言われて複雑だったけどうれしかった。

いつか来る恭くんのキスシーンのために、恋愛ドラマや恋愛映画をたくさん見て耐性をつけた。


〝わたしは恭くんを応援する〟

その言葉ばかり言っていたから、それが自分の本心だと思っていた。

恭くんのことは好きだけど、それは人として尊敬できるから好きなだけ。恋愛的な意味はない。



──はずだったのに。

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