【移行予定】擬似的なシンメトリー
「恭くん、お待たせ」
映画館の入口で、メガネをかける恭くんを見つけた。
「早かったね」
「待たせたら悪いと思って。それより、なんの映画を観るの?」
「絢音が決めていいよ」
「恭くんが観たくて誘ったんでしょ。恭くんが観たいのでいいよ」
「おれはなんでもいいよ。絢音と観たかっただけだから」
さらりとそう言う恭くんには特別な意図はなくて、言われ慣れたわたしはいつもなにも考えず受け入れるのだけど、今はとても「わたしも恭くんと観られるならなんでもいい」とは返せなかった。
「まあでも、絢音のことだからこの恋愛映画かな?」
と、涼くんが指したのは、タイトルに夏の文字が入った恋愛映画のポスター。
抱き合う男女が映っていて、涙を誘うようなキャッチコピーが書いてある。
夏休みだから、ほかにも子ども向けのアニメ映画やアクション満載の洋画、ホラーチックな邦画などおもしろそうな作品がたくさんあるけど、いつものわたしだったら迷いなくこの恋愛映画を選ぶ。
……いつもなら。