【移行予定】擬似的なシンメトリー
「そ──」
「俺、こっちの映画がいい」
そうだねと言おうとしたわたしの言葉を遮って、涼くんが隣のポスターを指さした。
それは、さっきまで涼くんが読んでいた青年漫画を原作にした実写映画で、いかにも涼くんが好きそうなデスゲーム系の作品だ。
「おれはいいけど、絢音は?」
「わたしもいいよ。こっちのほうが今の気分に合ってるかも」
「じゃあちょうどいいね。これにしよう」
ちらりと隣を見ると、涼くんはなんてことない澄ました顔をしている。
わたしが恋愛映画を観られる気分ではないことに気づいてくれたのかな、なんて一瞬考えてしまったけど、単に涼くんが恋愛映画を観たくなかっただけかもしれない。