【移行予定】擬似的なシンメトリー
観るものを決めたわたしたちはチケットを買って席に着いた。
公開からけっこう日数が経っている映画なので、夏休みにもかかわらず席が埋まらない程度の空き具合でゆったりと観られそうだった。
わたしの右隣には恭くんが、左隣には涼くんが座った。
「絢音と映画館に来るの久しぶりだね」
「そうだね。中二のときに友達何人かと一緒に来て以来?」
「そうそう。なにを観るかで揉めたときだ」
「なんで久しぶりなの? 一緒に来たりしねぇの?」
涼くんが尋ねてきた。
「恭くんの立場上、女性とふたりでいるところを見られたらまずいんだよ。だから、外では会わないようにしてるの。リスク管理ってやつ」
「まあ、まだ顔バレしても騒がれるほど知られてないから意識しすぎかもだけどね」
「へえ」
と、涼くんが尋ねておいて興味なさそうに相槌を打ったきり会話が途切れた。
スクリーンにはこれから公開される映画の予告や、サイトに登録してお得に映画を鑑賞しようみたいなCMが流れている。
スマホの電源を切ったか今一度確認して、劇場が暗くなるのを待つ。
不意に、ひじ掛けに置いていた右手を握られた。
右側──つまり、恭くんの手。
はっとして隣を見ると、恭くんは何事もなかったかのように目線をスクリーンに向けている。