【移行予定】擬似的なシンメトリー
「あの話なんだけど」
ひとり言のつもりか、話しかけているつもりかわからない声で囁いた。
前者だと思おうとしたけれど、一応、反応してみる。
「あの話って?」
「僕好き」
「ああ、うん……」
反応しなければよかったと思ったのも束の間、恭くんが横目でわたしを一瞥した。
「絢音が毎シリーズ楽しみにしてるのはわかってるんだけど、おれが出るやつだけは観ないでほしいんだ」
スクリーンの光が反射してチカチカと映し出される恭くんの横顔がなぜか困ったような表情をしていて、わたしはどうしてと聞き返すことができなかった。
もともとそのつもりで、どうやって観ない言い訳をしようか考えていたからそう言ってくれるのはむしろありがたく、「うん」とだけ答えたけれど、わざわざお願いしてくる理由を考えるとモヤモヤした。
わたしには見せられないほど恥ずかしい絵を撮ったのかな。
握ってくる手が複雑にわたしの心をかき乱す。
それからまもなくして劇場の照明が落とされ、いくつかの予告を挟んだ後にスタートした映画は心理戦が繰り広げられておもしろかったけれど、ところどころでわたしの心を置き去りにした。