【移行予定】擬似的なシンメトリー
そのとき、わたしに馬乗りになっていた彼女が、戻ってきた涼くんによって引き離された。
「すーか!」
「絢音、大丈夫か?」
涼くんを見つけた途端、顔をぱっと明るくさせる彼女を無視して、涼くんはわたしに身を寄せて起き上がらせてくれた。
「だいじょうぶ、じゃない……」
さすがに強がれなかった。
知らない人にいきなり叩かれて押し倒されて、髪を引っ張られ、誘拐犯扱いされて大丈夫なわけがなかった。体が小刻みに震えている。
知らないと言ってもまったく見覚えがないわけではなく、わたしが涼くんの家を追い出されたときに入れ替わるようにしてやってきた女の子だけど、ほとんど知らないも同然だ。
涼くんがそんな彼女を睨みつける。
「おまえ、こんなところでなにやってんだよ」
「なにって、こいつがあたしからすーかを奪ったから取り返そうと」
「俺はおまえのものでもねぇし、おまえらんとこにはもう行かないって連絡しただろ」
「知らないよ。すーかはこいつに毒されて──」
「真珠」
涼くんの低く鋭い声が、真珠と呼ばれた彼女の言葉を遮った。
「おれはおまえを捨てたんだよ」
ふしぎなことに、なにを言っても動じなさそうな真珠さんが、涼くんのたったひと言で口を閉ざし魂が抜けたみたいに顔面を青白くした。
行こうと言って涼くんに肩を抱かれ、わたしたちはこの場から立ち去った。