【移行予定】擬似的なシンメトリー
涼くんとは思えない優しい表情。涼くん、こんな顔もできるんだ。
ちょっとだけ恭くんみたい……と思ったところではっとする。
「そういえば、さっきの『捨てた』ってどういう意味?」
わたしは誤魔化すように話を戻した。
「あれは真珠にとっての呪いの言葉なんだよ。親に捨てられ男に捨てられ……なるべく言いたくなかったけど、暴走するあいつを止めるにはああ言うしかなかった」
「そうなんだ。真珠さんは涼くんのことが好きみたいだけど、涼くんも嫌いなわけじゃないんだよね?」
「は?」
「だって、家に入れてたじゃん。それって、そういうことをする仲ってことだよね?」
「ちげーよ。あれは絢音を突き放すために入れただけで、あの後すぐ追い返したし。俺は好きでもない女は抱かない」
「そう、なんだ……」
ということは。
「じゃあ、わたしが涼くんの家に行ったあのときも、別に最後までするつもりはなかったんだ」
好きでもない女にキスはできるんだという疑問は残るけど、もともとそのつもりがなかったのなら、わたしに危機感を持たせようとするためだけの捨て身の行為だったと納得できる。
不意に涼くんが歩くスピードを緩めた。