【移行予定】擬似的なシンメトリー
涼くんが恭くんの名前を口にした瞬間、なぜかさっき観た映画のワンシーンが頭の中に流れ込んできた。
主人公と、彼を貶めたかつての親友がようやく直接対決をするシーンで、ふたりが口八丁手八丁で騙し合いを繰り広げていた。
そのシーンで覚えているのは映像のみ。どんな会話が交わされていたのかは覚えてなくて、なのになんで突然、そのシーンを思い出したかというと、そのときに別のことを考えていたからだ。
巧みな心理戦が行われている真っ最中に、わたしは恭くんとのこれからを考えていた。
だから、そのワンシーンを想起したところで繋がるのは物語の展開ではなく、わたしの心。おかげで大事なことを思い出した。
「わたし、決めた。恭くんとはこれからも幼なじみでいる」
歩くスピードを少し速めて涼くんの前に躍り出たわたしは、そう宣言した。
「仮に恭くんと付き合えたとしても……仮だよ? あくまで仮だからね。わたしは恭くんがラブシーンを演じるのを、たとえ見なかったとしても耐えられない。この先ずっとそうやって恭くんにモヤモヤを抱えるくらいなら、幼なじみでいたほうがマシって、映画を観て思ったんだ」
「俺らが観たのってそういう映画だったっけ?」
「そこはツッコむところじゃないよ」
振り返って笑顔を見せれば、涼くんも申し訳程度に笑みを見せてくれた。
そこからはしばらく縦に並んで歩き、駅を目指す。