【移行予定】擬似的なシンメトリー
涼くんに部屋を開けてもらって中に入ると、畳の匂いとお線香の香りが鼻腔を撫でるように刺激した。
ここは正しくは涼くんのおばあちゃんのお家だけど、今年の春にそのおばあちゃんが亡くなって涼くんがひとりで住んでいると恭くんが言っていた。
仏壇にはおばあちゃんの写真が立てられている。
涼くんはこの家にどんな想いでひとりで住んでいるのかと思うと、胸がきゅっとなった。
「救急箱どこにある?」
「知らね」
「勝手に探すね」
涼くんを床に座らせて、ここかなと当たりをつけて開けた棚の引き出しに救急箱は入っていた。
一発で当てたわたしを観察していた涼くんが「強盗に入ったことある?」と冗談を言ってきたけど無視して、痛々しいその体を手当てしていく。
「涼くん、傷は男の勲章じゃないよ?」
「思ってねぇよ」
「じゃあケンカはやめなよ」
昨日今日できたものではない傷がたくさんあり、普段どんな生活しているのかを垣間見た気がしてさすがに心配になる。
「終わったなら帰れ」
ちょうど手当てが終わったタイミングで、涼くんがわたしを追い返そうと肩を押してきた。
わたしはまだ帰らないよという意思を伝えるためベッドに座った。