鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「ま、うちBtoBだから、そこまで一般ウケ気にしなくていいのは幸いよね~」
「まあ、それはそうなんですけれど」

 半導体は、どんな電気製品にだって使われている。
 スマートフォンにも、テレビにも、電車にも、車にも――つまり、うちの取引相手は個人じゃない。各メーカーがメインだ。
 家電のメーカーは気にしても、中身の半導体メーカーにまで気を配る人はそういない。
 そこは確かに浦田さんの言うとおりだった。じきに報道もおさまるだろう。

 とはいえ玲司さんが忙しいのは事実だ。
 それは秘書である私がいちばん知っている。
 できうる限りのサポートは、もちろん全力でさせてもらっているけれど。
 なのでせっかくの誕生日ではあるけれど、玲司さんは『先に帰っていてくれ』と私を帰した。

「……よし、盛大にいくぞ」

 玲司さんが帰宅するのが何時になるかはわからないけれど、幸い明日は休日だ。
 せっかくの誕生日なんだもの、ちゃんとお祝いしたい!

 買い込んできた食材で、私にできる限りのご馳走を作っていく。昨日から下ごしらえはしていたのだ。
 牛タンシチューに、カルパッチョに、ローストビーフにグラッセ。
 エビやサーモンをたっぷり使ったテリーヌは初めて作ったけれど、まあまあ美味しくできたと思う。

 それらを作り終わったころ、ようやく玲司さんから帰宅すると連絡が入った。
 私はしばらく迷い、意を決して私用にしてくれているウォークインクローゼットに向かう。

「どうしよう引かれたら……」

 ぽつりとつぶやきつつ、思い切ってそれらを身に着けた。
 そうしてリビングで待っていると、開錠を知らせる電子音が鳴る。か、帰ってきた……っ。
 私は気後れしつつ玄関に向かう。ちょうど彼が入ってきたところだった。

「ただいま心春。遅くなってすま……ない……」

 玲司さんが目を丸くして鞄を撮り落とした。広々とした玄関の大理石の上にそれが落ちる音が響く。

「あ、あの、その、ええっと、変でしょうか」

 私は眉を下げた。ばくばくと胸が激しく鼓動を刻んでいた。
 もしかしたら、その心臓の動きまで玲司さんから見えているかもなんて思う。

 なにしろ私は、恥ずかしいところを隠せているのだかいないのだかわからない繊細なレースでできた下着に、着ることでかえってふしだらに見えてしまいそうな透けたベビードールだけという、もうめちゃくちゃ淫らな格好でいたのだから。
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