鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~

 デート当日は、もうすっかり春が来た、と言ってもいいくらいの陽気に包まれていた。天気予報によれば、四月下旬ほどの気温らしかった。

「うわあ、気持ちがいいですねえ」

 ざあ、とまだ冷たい風が吹き抜け木々を揺らした。

「そうだな」

 玲司さんも優しく私に向かって目を細めた。
 私たちがいるのは、都心から車で二時間ほど離れた山間の町の公園だ。

 大きな湖のまわりを、ぐるりと周回路が囲んでいるらしい。
 そこを散策し始めて五分ほど経つけれど、まだ人とすれ違ったりはしていない。

 こんなに気持ちがいい日なのに、どうしてだろう。

 少し不思議に思いつつ木々の合間に見える湖に目をやる。
 結婚式を挙げたブレッド湖に少し色合いが似ている。もちろん、あれほど大きな湖ではないけれど。
 ふと、玲司さんが立ち止まった。

「君にあげたいものがあるんだ」
「あげたいもの?」

 不思議に思っている私に彼は微笑み、私の手を取り公園の管理施設と思しき棟に向かう。
 道すがら、玲司さんが楽しげに口を開く。

「さっきから誰もいないのを、不思議に思わなかったか?」
「え? ああは、それは……」
「実はここは、公園じゃない」

 玲司さんがいたずらっぽく笑う。
 う、わああ、普段クールなのにこの笑顔のギャップは、いつもながらすごい。
 苦しい。
 尊すぎて苦しい……!

「どうした?」

 不思議そうにする玲司さんが、施設の中に入る。
 やけに広い玄関ホールに置いてあったのは、二台の自転車だった。フレームは空色で、とてもきれいな色合いだった。

「これって……ええと、ロードバイク?」

 そうだ、と玲司さんは私の手を引く。

「走ってみないか?これで」

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