鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 どうやら公園だと思い込んでいたここは、実は自転車専用の施設だそうだ。

 といってもレースで走るような人が練習するような、坂道やカーブが続くようなコースではなくて、全長五キロの平らで走りやすい道を、湖を眺めながらのんびり走ることのできるところらしかった。
 まあ、全部玲司さんの受け売りなのだけれど。
 そんな施設を、玲司さんは今日貸し切ってくれているらしい。

 そんなわけで、生まれて初めて私はロードバイクなんてものに乗る。
 玲司さんが用意してくれていた服に着替え、プレゼントされた空色の自転車を恐る恐る外に運ぶ。コースに出て、まじまじと自転車を眺めた。

「こんな細いタイヤの自転車、乗ったことないですよ」

 そう言って顔を上げると、玲司さんは少し眩しい顔をした。
 首を傾げると、彼は目元を綻ばせる。

「そんなスポーティーな格好は初めてみたな、と。……似合うな」
「あ、ありがとうございます」

 私も玲司さんも、上には自転車競技用らしいぴったりとしたジャージを着ている。
 色合いがビビッドで、すごくお洒落だ。
 ボトムスはハーフパンツに、長距離ランニング用の黒いスポーツタイツ。
 ヘルメットも本格的なものだった。

「本来は靴も専用のものを用意しようか迷ったんだけれど」

 玲司さんが言うには、本来ロードバイクはペダルに靴を固定するらしい。
 ただ慣れるまで着脱が難しいだろうと、今回はやめにしたそうだ。

「でも、どうしてロードバイクを?」
「社会人になりたてのころ、健康目的でしばらくの間乗っていたんだ」
「そうだったんですね」

 私が入社するより前のことだろう。
 さっそく乗ってみると、案外と乗り心地がいい。

「わあ」

 ペダルを踏むと、一気に進む。
 楽しくて軽く漕いだつもりが、結構な距離になっていた。
 振り向いて慌てて止まると、玲司さんがすぐに追いついてきた。

「すごいな。初めてとは思えない。陸上をやっていただけあって、体幹がしっかりしているな」
「そうでしょうか」

 褒められれば素直に嬉しい。
 玲司さんと湖を眺めながら、のんびりとコースを走る。
 やがて、真っ直ぐな道が見えてきた。

「少しスピードを上げてみようか」

 そう言う玲司さんに合わせ、ゆっくりとスピードを上げていく。
 漕げば漕ぐだけスピードが出そうだ。
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