鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 敬愛する本城社長を虚仮にされて、笑顔で頷いてなんていられない。

「撤回してくだされば、専務がわたくしに行ったセクハラ行為に関しては他言いたしません」
「な、ななな」

 花田専務はどっと顔に汗をかき頬を紅潮させた。セクハラの自覚はあったようだ。

「なにを言い出すんだね。証拠なんか……」
「最初に申し上げた通り、のちに本城と説明内容を共有するため、録音だけはしております。専務に横に座るよう強要されたと証言いたします。遊ばないかと誘われたとも」

 私が小型の録音機器をローテーブルから持ち上げると、どうやら性欲でそんなことすっかり忘れていたらしい専務はサッと立ち上がりこちらに向かって手を差し伸べる。

「それをこっちによこしなさい」

 余裕ぶった話し方が癇に障る。

「嫌です。先に撤回をしてください。本城は」

 私は声に涙が滲むのを自覚しながら唇を動かす。

「本城は、世界一努力しています。御曹司という立場に満足するような人ではありません。誰より頑張って、会社のため、社員のため、お客様のために身を粉にして働いています。結果を出して、出して、それでも現状に満足せず前に進み続けている人です」

 怒りで、私がされたセクハラに関して半分意識から飛んでいた。ただひたすらに、この世で一番尊敬する人を愚弄されたことだけが頭の中でぐるぐると回っている。

「そんな努力家、……期待するしかないじゃないですか。応援するしかないじゃないですか」

 私はぐっと録音機器を手に握りしめ、ひとつ息を吸って専務をじっと見る。

「撤回、して、ください」

 一言一句漏らさず強調して言った言葉を無視し、専務は真っ赤な顔のまま私の腕を掴み上げた。

「い、たい……放してください」

 怖くてうまく声が出ない。

「優しくしてやればつけあがりやがって、このアマ! 黙ってオレの言うこと聞いてりゃ……いててててて!」

 目の前で花田専務が身をよじる。何事かと目を丸くする私の背後から、絶対零度よりもずっと冷たい、低い声が聞こえた。

「花田専務。いまウチの秘書になにを?」

 ばっと振り向く。冷え冷えとした表情を浮かべた本城社長が、花田専務の手首を強く握っていた。

「い、いやなにも……その」
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