鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 社長は微かに表情を動かしたあと、小さく首を振る。

「手に触れてもいいだろうか」
「手? ……はい、大丈夫です、が……?」

 不思議に思いながら返事をすると、社長は私の手を取ってきゅっと握った。

「守り切れなくて、すまなかった」

 真摯な視線に射抜かれて、うまく息継ぎができない。

「もうあんな目に遭わせないと約束する。これからは必ず守る」

 うまく息ができない私は、なんだか目の奥が熱くてしかたない。
 きゅっと噛んだ唇を、社長が男性らしい硬い指先で優しく撫でる。

「噛むな」

 返事をしようとして息を吸い込んで、そのまま決壊するみたいに涙が零れ落ちてしまった。
 どうしよう、我慢しきれなかった。

「は、う、も、申し訳ございません……っ」
「構わない」

 そう言って社長は立ち上がり、もう一度私に聞く。

「君に触れる許可をくれないか」

 混乱しつつ頷き返すと、社長は私をぎゅうっと抱きしめた。
 安心感のある、たくましい身体。温かな体温、微かに聞こえる息遣い。

「大丈夫だ、もう大丈夫」

 耳元で聞こえる落ち着いた低い声に、気が付けば子どもみたいに泣きじゃくってしまっていた。
 そんな私の背中や後頭部を、社長は優しくぽんぽんと撫でる。
 指先から伝わる確かな慈しみに、肋骨の奥がきゅうっと切ない。

「それから、ありがとう」

 その言葉の意味は、よくわからない。
 ただ疑問はもうきちんとした言葉になってくれなかった。ただ安心する体温に包まれ、泣き続ける。
 どれくらいそうしていただろうか。
 ようやく泣き止みかけた私は、はっと気が付く。社長のスーツ、私の涙で濡らしてしまった。

「は、あ、あの、申し訳ありませ……!」

 ばっと顔を上げると、至近距離に社長の最高に整ったかんばせがあった。

 半分意識が飛ぶ。
 かっこよすぎる。

 なんですかこの精悍さは……!
 思っていた以上にまつ毛が長い。少し狭めの二重が、切れ長の怜悧な目をよりシャープに見せている。
 そして鼻が! 鼻が高い! 彫りが深い!

 見惚れてしまっている私の眼前で、ゆっくりと目元が綻んだ。
 思わず「知らなかった」と息を呑んだ。
 この距離でようやくわかるほどの、ほんのちょっとの笑いじわができている。

 か、かわいい。かわいいです社長……っ!

 心臓がキュンで停止しそうになっている私の目元を、社長の硬い指先が擦る。

「もう大丈夫そうだな」
< 13 / 106 >

この作品をシェア

pagetop