鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「はっ、はい。それよりお召し物を汚してしまいました……」
私は社長のスーツの胸元と、白かったワイシャツの汚れに触れた。ほんの少しだけれどお化粧が付いてしまっている。
「君のハンカチ代わりになれたのなら、むしろ光栄だよ」
「そんな」
おろおろとする私の頬を、社長は指の関節で撫でる。どきどきと変な鼓動がうるさい。頬が熱い気がする。社長が目を柔らかく細め、何か言おうとした瞬間だった。
「森下さん、いま花田専務がすごい勢いで走っていったけれど、何か知っ……」
社長の肩のむこうに香椎係長が見えた。こちらを見て硬直している。
社長が慌てたように立ち上がる。香椎係長は「おほほほほ」と笑って、ゆっくりと応接室の扉を閉めた。
「お取込み中でしたかー。ごゆっくり」
「待て香椎、誤解だ」
社長が香椎係長を追いかけていく。私は呆然とソファに座り込んだまま、社長の温もりにいまだ包まれているような、そんな気分になっていた。
定時を過ぎ、替えのスーツに着替えた本城社長は「今日はどうする」と私に問う。ディナーに誘っていただいている件だ。
「あんなことがあったんだ。今日は無理せず帰宅したほうがいい」
優しい社長の声に、私は首を振る。
「社長さえよろしければ、本日ご一緒させていただいていいでしょうか。その、なんといいますか」
「ぱあっとしたい気分、といったところか」
「その通りです」
苦笑すると、社長はゆったりと頷く。
「君が楽しい気分になれるよう善処するよ」
「そんな、わたくしは社長と一緒にいられるだけで幸福ですので」
社長が微かに目を見張り、なぜだか少しだけ視線を泳がせた。
そうして本城社長に連れられやってきたホテル最上階のフレンチレストランは、なんと個室が予約されていた。仰ってくださればわたくしが手配いたしましたのに、という私に社長は『それでは意味がないから』と真剣に仰ってくださった。
部下をねぎらうのにも全力……! さすが社長だ。
それにしても――と、煌びやかな東京の夜景を見下ろす。
きらきらしい東京の夜に、私はいまだに慣れることができない。
身の丈に合わないのかもしれないな、と少しだけ目を細めた。
私は社長のスーツの胸元と、白かったワイシャツの汚れに触れた。ほんの少しだけれどお化粧が付いてしまっている。
「君のハンカチ代わりになれたのなら、むしろ光栄だよ」
「そんな」
おろおろとする私の頬を、社長は指の関節で撫でる。どきどきと変な鼓動がうるさい。頬が熱い気がする。社長が目を柔らかく細め、何か言おうとした瞬間だった。
「森下さん、いま花田専務がすごい勢いで走っていったけれど、何か知っ……」
社長の肩のむこうに香椎係長が見えた。こちらを見て硬直している。
社長が慌てたように立ち上がる。香椎係長は「おほほほほ」と笑って、ゆっくりと応接室の扉を閉めた。
「お取込み中でしたかー。ごゆっくり」
「待て香椎、誤解だ」
社長が香椎係長を追いかけていく。私は呆然とソファに座り込んだまま、社長の温もりにいまだ包まれているような、そんな気分になっていた。
定時を過ぎ、替えのスーツに着替えた本城社長は「今日はどうする」と私に問う。ディナーに誘っていただいている件だ。
「あんなことがあったんだ。今日は無理せず帰宅したほうがいい」
優しい社長の声に、私は首を振る。
「社長さえよろしければ、本日ご一緒させていただいていいでしょうか。その、なんといいますか」
「ぱあっとしたい気分、といったところか」
「その通りです」
苦笑すると、社長はゆったりと頷く。
「君が楽しい気分になれるよう善処するよ」
「そんな、わたくしは社長と一緒にいられるだけで幸福ですので」
社長が微かに目を見張り、なぜだか少しだけ視線を泳がせた。
そうして本城社長に連れられやってきたホテル最上階のフレンチレストランは、なんと個室が予約されていた。仰ってくださればわたくしが手配いたしましたのに、という私に社長は『それでは意味がないから』と真剣に仰ってくださった。
部下をねぎらうのにも全力……! さすが社長だ。
それにしても――と、煌びやかな東京の夜景を見下ろす。
きらきらしい東京の夜に、私はいまだに慣れることができない。
身の丈に合わないのかもしれないな、と少しだけ目を細めた。