鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 社長は優雅にグラスを傾け、唇を湿らせ言葉を続ける。

「彼は先ほど逮捕されたそうだ」
「そう、でしたか……」
「君がされたこともきっちり罰を受けさせる。そのあたり、俺に任せてくれないか」

 真剣に言われ、小さく頷く。私のことごときで手を煩わせはしたくないものの、言い方がすでに物事を決定しているときのものだった。社長は意思が強いのだ。

「お願いいたします」

 そう言うと、社長は心なしかほっとした色をその精悍な顔に浮かべる。

「あのかた、きっと常習です」
「わかった。そのあたりも調査する」
「お手伝いいたします」
「いや」

 社長は目を眇め、低く言った。

「あの男に関しては、俺がきっちり引導を渡してやらないと気が済まない」

 私は感動して目を瞬かせた。
 なんて部下想いなのだろう、本城社長は……!

「ところで」

 と、社長は声のトーンを変えた。

「会長……母がなにか君に変なことを言ったらしいな。すまなかった。その、伴侶がどうの、と」

 本城社長にしては珍しく、とってもとっても珍しく、歯切れ悪くそんなことを言う。どことなく照れている仕草にキュンとした。かわいいです、社長!

 推しを「かっこいい」ではなく「かわいい」と認識し始めると末期らしい。

 まさしくその通りだろう。
 完全に、社長沼。
 私は勝手にニヤつき始める頬を叱咤して、きりっとした表情を意識して微笑んだ。

「はい。伺っております」
「悪かった。俺はどうやら、かなりわかりやすいらしく、その……君も、もうとっくに気が付いているだろうと覚悟はしているんだ」
「……? 気が付く、とは?」

 お相手様とのことだろうか。

「つまり……なかなか言うタイミングがなく、ここまで来てしまったが。ずっと、君に伝えたかった」

 精悍な眉をきりりと寄せる社長に、私はにっこりと笑う。

「心に決めた方がいらっしゃるという話ですか?」
「ああ、それだ。……ん?」

 端整なかんばせに怪訝な色を浮かべ、社長は私を探るように見つめた。
 私は胸を張り、言葉を続ける。

「会長からご指示をいただきました当初は、お見合い相手を探せというご指示だと勘違いし、すでにリストアップまで済ませてしまっていました。申し訳ございません。ですが、ご心配に及びません。すでに会長からご指摘いただきリストは破棄しております。それで、心に決めたお相手というのは」
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