鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 私は動揺してワインをテーブルクロスにしみこませてしまいそうになる。「あばばばばばばば」とか言いそうだ。必死で我慢してぐっと奥歯を噛み締めた。

「な、なにを仰います社長……? 社長ほど完璧な人間をわたくしは存じ上げません。凡庸なわたくしの生涯を全て、一滴残らず注ぎ込んで後悔はないほど、わたくしは社長を尊敬しております」

 本城社長は「ふ」と笑い、肩をすくめた。

「そんなふうに思ってもらえるほど完璧な人間じゃないよ、俺は」
「そんな」
「俺はね、怖いよ森下」
「怖い……?」
「瑕疵だらけの本当の俺を知られたら。俺がハリボテだと気が付いたら、君は俺を見限ってしまうのだろうか」
「まさか」

 私は胸を張り、しっかりと本城社長を見据える。

「社長に瑕があるのならばそれは努力の証、ハリボテだとおっしゃるのならば潰れぬようこの森下、全身全霊全力でお支えするまで」

 そうして真剣に、はっきりと言う。

「たったそれくらいのことで、わたくしの社長に対する心をお疑いにならないでください」

 本城社長は目を丸くして、それから力を抜いて眉を下げ笑った。
 かなりのレア表情! どうしましょう写真、写真……っ!

「たった、か。君は本当にすごい」
「そのようなことは」
「本当だ。君がいると、俺は……強くなれる。勇気をもらえる」

 本城社長は私の手を取り、真剣に言う。

「心からの信頼をもらえることが、こんなに心強いのだと、君に出会って知ったんだ」
「社長……」

 私ごときが、社長の力になれていると知っただけで胸がいっぱいなのに……手! 手を繋がれています……! 今日、一体何回手を握っていただけるのでしょう。夢じゃないだろうか……!
 私は握ってくる大きな手の体温にときめきが隠せない。憧れの方に、こんなことをされて冷静ではいられない。体温が頬に集まっていく。

「覚えているか? 俺の社長就任直前で、米国企業から敵対的TOBをしかけられかけたよな」
「もちろん忘れるはずがありません」

 私は強く頷く。

「あのときは、社長の八面六臂のご活躍で難を逃れました」
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