鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 パックマンディフェンスという逆に相手会社を買収するという対抗策をとったのだ。
 当然資金力の勝負となるが、そこは社長が一枚上手だった。
 逆に米国企業を傘下におさめ、一躍社長が時の人となったのは記憶に新しい。
 その年の経済誌の表紙に、社長のお写真が使われたくらいだ。
 そのせいで女性男性問わずにファンが増え、一時会社は騒然とした。

「俺だけの頑張りじゃない。君が支えてくれた。欲しいと思った資料はいつだってすぐに用意され、したいと思った会合はすぐに開かれた。全部君が手配してくれていたんだ」
「と、とんでもないことでございます。秘書室一同で誠心誠意頑張らせていただきました」

 ぶんぶんと首を振る私に、社長は首を振る。

「君が不眠不休で俺を支えてくれたのは、秘書室どころか当時を知るだれもが認めるところだ」
「そんな」

 社長は私の目を見つめ、真摯な声音で真っ直ぐに言う。

「だから俺は君がいい」
「っ、で、でも。その、繰り返しになってはしまいますがっ」

 私は目を何度も瞬きながら言葉を紡ぐ。

「わたくしでは社長の伴侶たりえません。なにしろ凡庸です。見た目も人格も、それから家柄も」
「家柄なんて今時気にしないだろう」
「そ、それは……そうなのかもしれませんが」

 会長にも言われたことを思い出し、自分自身の認識をアップデートさせる。『結婚に家柄は関係ない』。

「それから、君は綺麗だ」

 さすがに固まった。き、綺麗? 綺麗とは?
 夜景を通す透明な嵌め殺しの窓に自身を映す。目と鼻と口があるなあ。とても普通の顔立ちだ。あえて言うなら歯並びがいい。それくらいだ。

「性格もすごく好ましい」

 社長のどこか甘ささえ感じる声に視線を戻す。

「しっかりしているかと思えば鈍かったり、穏やかである一方で鋭かったり。そういうところが、すごく愛くるしいし、かわいらしいなと思う」
「え、あ、あの」

 顔が発火しそうだ。大人になると、仕事以外で人からそう褒められる機会はなくなるから不慣れだし、その上いま褒めてくださっているのは尊敬してやまない本城社長だ。

「う、嬉しいです……」

 しおしおと目線を逸らしながら、なんとかそう口にする。社長は微笑み、握る手の力を強くした。

「ほかに、君が結婚を断る理由は? ほかに好きな男でも?」
「ま、まさか。というかわたくし、結婚願望自体がないのです」
「なぜ?」
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