鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 思わず目を瞠る。だって、こんな顔は、初めて見る。なんと言えばいいんだろう。
 色気たっぷりの捕食者、そんな感想が自然と頭に浮かんだ。なんだそれ。
 そう思うのに、ほかにぴったりな言葉が思い浮かばない。

 背中がぞわぞわした。嫌な感じじゃない。
 むしろ……その視線の対象が自分であることが、嬉しくてたまらない。
 社長は私の手をそっと持ち上げ、そうしてじっと見つめた。
 身じろぎさえできない私の前で、彼は恭しささえ覚える仕草で手の甲に口づけた。彼の唇の柔らかさ、すこしかさついた皮の感触、そして体温がまざまざと感じられる。ぶわわと電流みたいに熱が頬に集まる。

「ほ、本城社ちょ……」
「玲司」

 本城社長は目を細めて言う。

「婚約者なんだから、プライベートで他人行儀はなしだ。――心春」
「ひいっ」

 心臓が爆発するかと思った。推しがめちゃくちゃいい声で私の名前を呼び捨てしている……っ!
 ひとりアワアワしている私を見て、本城社長は喉奥で楽しそうにくっと笑う。

「どうした? 呼んでくれないのか? 心春」
「あ、いやいやいやいやでもですね、でもでもでもそんな畏れ多い……っ」
「そうか。寂しいな」

 社長は眉を下げて私をじっと見つめた。

「婚約者になるんだ。もっと近づきたいと思っているのは、俺だけか」
「め、滅相もございませんっ」

 私はぶんぶんと首を振り、必死に言いつくろう。

「わ、わたくしめもその、社長にお近づきになりたいとっ」
「玲司」
「っ、れ、玲司様に」

 社長がぶはっと吹きだした。

「いまの日本のどこに夫を様付けする夫婦がいるんだ」
「夫婦っ」
「気が早かったか」

 玲司様は楽しげに肩を揺らす──と、様付けはいけないのだっけ。

「そ、それでは」

 こほん、と私は咳払いをし、震える唇をそっと動かした。

「れ、玲司、さん……?」

 おそるおそる発したその言葉は、思った以上にしっくりしている気がした。
 まるで、ずっと本当はそう呼びたいと思っていたかのような。

 ――まさか、ありえない。

「……ん、まあ、それでいいか」

 本城社長……いや玲司さんは小さく笑い、私の手をようやく放してくれた。そうしてじっと私の目をみつめて言う。

「これからよろしくな、心春」

 そうして、とっても大事なことのように続けたのだ。

「もう逃がさない」

 ――と。
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