鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 お腹の奥のほうが甘く蕩けてしまうような、そんな声音だった。



 夢見心地で帰宅して、翌朝出社すればすでに皆が私と玲司さんとの婚約について知っている状態だった。

「ようやく……って感じよね」

 わざわざ朝イチで秘書室まで来た浦田さんがふにゃりと笑う。私は首を傾げた。

「ようやく、とは?」
「ああ気にしないで。とにかくまとまってよかったー。肩の荷がおりた」
「……?」

 首の角度をさらに大きくする私に、浦田さんは「秘密だよ」と声を顰め、私の耳元で囁く。

「あたしね、本城社長の親戚なの」
「え! ……っ」

 大声を出してしまいそうになり、慌てて口を押さえる。浦田さんは肩をすくめた。

「コネとか使えないくらいのめちゃくちゃな遠縁なんだけど、玲司くんとは歳が近いから親戚の集まりとかでたまに話してたの」
「──あ、もしかして、私がパワハラとかされてたのを社長に伝えてくださってのって」
「そ、あたし。もう手に負えないと思って、玲司くんに報告した。ついでに森下さんのアシスタント能力の高さも」

 浦田さんは苦笑して私の肩を叩く。

「まあ、とはいえすごく親しいわけでも……あなたが玲司くんをどうとも思ってないって言えるほどの距離感ではなかった、というか」
「それは当然の共通認識というか、社長も認識されていたのでは?」

 というか玲司さん自身もそうだろう。
 消去法で私だけ残っていただけであって……。

「ううん、まあ……あれだ。なんにせよお幸せにね」
「ありがとうございます」

 私は笑いながら立ち上がり、「さて」と気合を入れる。浦田さんが笑った。

「あれ、なんか気合い入ってる?」
「浮かれてミスなんて最悪ですから」
「浮かれてるんだ? やっぱ実は男性として好きだったの?」

 どことなく嬉しげにそう言われて、うーんと首を捻る。

「……いえ、やっぱりそうじゃないと思います。ただ、最推しを一生身近でお支えできる立場になれたことが嬉しくて」
「浮かばれないわねえ玲司くんも」
「浮かばれない、とは? はっ、や、やっぱり私では力不足……!」
「違う違う」

 苦笑して言われ、私は首をひねった。
 昨日からなんだかよくわからない状況になっている気がするなあ。

 浦田さんを見送ってから社長室に向かう。
 すでに玲司さんは嵌め殺しの窓を背に、デスクで書類のチェックをしているようだった。
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