鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 テーラーでオーダーメードされた三つ揃えのスーツをぱりっと着こなし、姿勢よく書類に目線を走らせていた。
 国外ブランドのスーツではなく、国内の職人さんに納得のいくこだわりたっぷりのスーツを作ってもらうあたりが、実に玲司さんらしい。堅実で誠実な人柄を表していると思う。
 もちろん国外ブランドのものだってたくさんお持ちなのだけれど。
 ネクタイの色は群青。本日は通常モードだ。

 あれ、そういえば昨日の勝負ネクタイは何のためにされていたのかな?

 もしかしたら定例会でなにかあったのかも。確認しなおしておかないと。
 私は「社長」と声をかけた。
 昨日はファーストネームで呼ぶよう言われたけれど、いまは仕事なのでこちらの方がいいだろう。予想通り、社長はちらっと私を見ただけで軽く頷いて書類に目線を戻した。

「おはようございます。お飲み物はいかがされますか」
「任せる」

 昨日は蕩けるような甘い低音だった声は、いつも通りのクールな声色に戻っていた。
 もちろんどっちの声も最高だ。鼓膜が歓喜で打ち震えている。

「かしこまりました」

 社長室専用の給湯室に向かい、しばし考える。
 さて、玲司さんはコーヒー派だ。私はそんな彼のために、何種類ものコーヒーを用意していた。結構丁寧に淹れるので、実は時間がかかる。けれど、そうやって少しぼうっとしながら一日のスケジュールを脳内で確認しなおすのが、私のルーティンでもあるのだ。そうしてコーヒーとともに玲司さんにお伝えする。

 さて。
 昨日はフレンチのフルコースだった。玲司さんは健啖家であらせられるけれど、今日のコーヒーは少しさっぱりとしたほうがいいかもしれないな。

「じゃあ、これにしよう」

 私はグアテマラ産の浅炒りの豆を手にとった。酸味がやや強調されている、さっぱりした豆だ。電動ミルでごりごりと挽いていると、ふと背後に気配を感じた。
 振り向けば、玲司さんが入口の壁に寄り掛かり立っていた。ミルを止めて首を傾げた。

「社長。どうかなさいまし……」
「君に飲ませたことはないが、俺もコーヒーを淹れるのはまあ、うまい方だ」
「そうなのですか?」
「だから、一緒に暮らしだしたら毎朝淹れてやる」
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