鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 そう言って玲司さんが近づいてくる。
 ……それは私の仕事では?ときょとんとしていると、彼が私の背中にぴったりとくっつくようにしてミルを持つ私の手に触れる。ま、まるで後ろから抱きしめられているみたい!

「しゃ、しゃしゃ社長?」

 頬に熱が集まる。視線を落とせば、私の手はすっぽりと彼の大きな手に包まれている。
 背中にはたくましい玲司さんの胸板が……っ!

 なにこれなんのご褒美?
 ときめきなのか緊張なのか、呼吸がうまくできない!

「……心春。俺がこんなふうに君に触れるのは、嫌じゃないか?」

 耳が蕩け落ちるかと思った。それほどまでに甘い声で、いま彼がビジネスモードでないことが呼び方からでもわかる。

「も、もちろんです……っ」

 だ、だめだ。心臓がどきどきしすぎて息苦しい。
 だって玲司さんが近い。体温をはっきりと感じるし、整髪料だろうもののいい匂いがする。
 なにしろ玲司さんは香水をお好みにならないので……と緊張しすぎて玲司さん豆知識に意識を馳せてしまう。

 ああ推しが、推しが近いです! 神様!

「本当に?」

 玲司さんがそっと私の頭に頬を寄せた。きゅんがとまらない、ときめき死する!

「ほ、本当です本当です……っ」
「そうか」

 少し、ほっとした様子で玲司さんは呟く。

「君が田代にされていたことを考えると、安易な身体的接触はやめた方がいいと思っていたんだ。もし少しでも恐怖や嫌悪感があるのなら、許可が出るまでもうこんなことはしない」

 田代というのは私にパワハラとセクハラを繰り返していたかつての課長だ。

「そ、そんな」

 私は彼の腕の中で振り向き、必死で言葉にする。

「玲司さんはあんな人とは違います……っ」
「そうか」

 玲司さんはそう言って、柔らかく目を細めた。

「それならば、触れてもいいんだな」
「もちろんですっ。玲司さんにならなにをされようと、わたくし幸福です」

 勢いよく答えると、玲司さんは目を瞠り、それから小さく眉を寄せた。

「君、絶対にそれ他の男の前で言うなよ」
「言うわけがないじゃないですか、わたくし他の男性に触れられたくはありません」

 あれ、なんで玲司さんは平気なんだろう。まあ尊敬の念が嫌悪を大幅に上回るからだろう……ってそもそも玲司さんに嫌悪感なんて持ちようがない。

「そうか。……よかった」
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