鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 これは玲司さんが婚約者として距離を詰めようとしてくれているのだろう、と判断し……というか、嬉しくて頷いた。
 玲司さんと私的なお出かけなんて、初めてだ!

 待ち合わせは東京駅だった。どこに行くのだろう。鎌倉? それとも那須方面?
 鞄を握りしめ、わくわくと玲司さんを待つ。
 十時待ち合わせなのに、楽しみすぎて一時間近く前に到着してしまった。
 そうして人ごみのなか颯爽と現れた玲司さん――シンプルなシャツに濃い色のジーンズ、歩きやすそうなスニーカー。ラフな格好も似合いすぎる、かっこいい――が私に告げたのは、なんというか、想定外の場所だった。




「まさか日帰りで京都とは」

 観光客で賑わう朱い鳥居をくぐりながら呟いた。
 交通費も玲司さん持ちだったし、新幹線だってグリーン席、いつのまにやら有名カフェのコーヒーと焼き菓子まで用意されていた。
 ひたすら恐縮する私だったけれど、気が付けば玲司さんのペースに乗せられ、リラックスして過ごしてしまった。のんびりお喋りしながらコーヒーを楽しむ間に、東京から三時間ほどで、京都中心部から少し離れたこの神社までたどり着いたのだった。まだお昼すぎだ。

 青々とした紅葉もまた、雨に濡れ艶やかに輝いている。玲司さんは小さく笑った。

「せっかくだから、と言っただろう」
「はい。嬉しいです」

 歩きながら素直に言葉にすると、玲司さんは微かに目を瞠ってそれから頬を緩める。

「君は本当にかわいらしく笑う」

 私は立ち止まり、目を丸くした。ほんの少し遅れて、全身から汗がどっと出て頬に熱が集まる。

「れ、れれれれれ玲司さんっ、からかわないでくださいっ」
「ん? からかってなんかないぞ」
「もー……おやめください、照れますので」

 両手で頬を包み、赤くなっているだろうそれを隠しながら唇を尖らせた。そんな私を見て玲司さんが男性らしく喉元で笑い、言葉を続ける。

「そういえば言おうと思っていたんだが、敬語はもうやめないか。少なくとも、私的な時間は」
「え、ええっ。そんな……無理です。沁みついておりますので」
「ならせめて、もう少しくだけた言葉遣いだと嬉しい。距離を感じてしまうんだ」

 そう言ってほんの少し目を細める。
 ざあ、と梅雨の雲間にも関わらず、やけに爽やかに風が吹いていった。
 玲司さんの周りは、いつもなんだか冴えて、ひんやりと清々しい。

「距離だなんて……そんなつもりは」
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