鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
一章
 
1章

 就活の面接であるあるなこの質問、あらゆる問答集に掲載があるであろうこれ。

『あなたの尊敬する人は誰ですか?』

 すでに社会人となって四年が経つ今現在、二十六歳の私がいまこの質問をされたならば、ノータイムで、なんなら食い気味にこう答えるだろう。


「もちろん、敬愛する本城玲司社長です!」


 ――と。


◇◇◇


「浦田さん、見ましたか? 今日の社長のネクタイ」

 昼休み。
 私は会社近くのカフェのランチセットをスマホのカメラにおさめながら、向かいの席で先にランチを食べ始めている浦田さんに話しかけた。三歳年上の、頼りがいのある女性だ。
 彼女は苦笑して「社長は見たけど」と肩をすくめた。

「ネクタイまでは見てないかな」
「どうしてチェックしてくれないんですか。普段は寒色系が大い本城社長が、今日はなんと赤系なんです。普段お召しのお色味も神が御手ずから造形されたとしか思えない完璧なかんばせに良くお似合いなのですが、赤! 赤ですよ情熱の赤。こちらももちろんお似合いです。ですが」

 私はフォークを片手に力説する。

「いいですか。社長がこのお色味のネクタイをするときは、なにか勝負事があるんですよ」
「勝負事ってなに? 本城社長の第一秘書さん?」

 浦田さんは楽しげに軽く目を細める。ちなみに不肖わたくし、森下心春は僭越ながら敬愛する本城社長の第一秘書を務めている。

「……それがわからないんです」

 私は柑橘系の風味が爽やかなサラダを食べ始めながら首を傾げた。

「今日は特になんのご予定もないんです……あえていうなら定期ミーティングが午後からありますが」
「ほかには?」
「ほかに……? ああ、夜に夕食を兼ねた簡単なミーティングが」
「誰と?」
「私です。普段のねぎらいも含めてかと思われますが、なんとホテルレストランでのディナーにご招待くださいました」

 それも最高級外資系ホテルだ。いまからわくわくして胃がきゅっとなる。
 いまランチしているこのカフェはパンが食べ放題だけれど、あまり食べ過ぎないようにしないと……。

「それじゃないの」
「どうして私とのミーティングが勝負事なんです」
< 3 / 106 >

この作品をシェア

pagetop