鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「玲司さん。それは私の個人的な感情で答えてよいものですか?」
「他に何があるんだ」
「玲司さんの、社長としての立場です」

 私はシートにもたれかかり、言いたいことを整理しつつ伝える。

「結婚式、披露宴というものは大勢の関係者が集まる貴重な機会です。より多くの方にご列席いただくため、時期、場所など慎重に検討を重ねねばなりません。そこに私の感情が付随する必要はないのです」
「却下」

 ひとことで却下された。私は身を乗り出し、玲司さんの顔を覗き込む。

「玲司さんのお優しい気持ちは大変ありがたいのですが、やはりここは冷静な判断こそが」
「結婚式にしても披露宴にしても、俺は君の気持ちを最優先にしたいと思っていた」
「必要ありません」
「ある」

 そう言い切って、玲司さんは私の手を握る。

「一生に一回なんだ。君が満足して、俺の横で本当に幸福な感情で永遠を誓ってもらいたい」
「永遠?すでに誓っております。とこしえにお支えすると」
「そうではなくて──部下としてではなくて、妻として」
「妻として……?」

 握りこんだ私の手を、玲司さんは優しく撫でた。
 慈しまれているのだと、素直に思う。もともと部下想いのかたではあったけれど、こんなに大切にされるものと思ってもみなかった。ときめきで息苦しい。

「そうだ。俺はね、本気で君を幸せにするつもりだよ、心春」
「それはもちろん……玲司さんはこうと決めたら必ず成し遂げるかたですので」

 困惑する私に、玲司さんは諭すように言う。

「これは君と俺、個人の結婚だ」
「ですが」
「もし君が望むのなら、近親者のみあるいはふたりきりでの挙式披露宴でもいいと思っているんだ。むしろ、俺としてはその方が好ましいと」
「な、なぜ」

 目を見開く。ビジネスとして、使えるものは使った方がいい。
 ふ、と玲司さんは笑い、私の額に自らのものをコツンと重ねる。
 まつ毛さえ触れ合いそうな至近距離に、玲司さんのかんばせがある。彼は目を閉じて、そしてほんの少し笑っているようだった。
 私はどうしたらいいのかわからなくて、視線をうろうろさせる。
 心臓は全速力で走ったときよりも、よほど速く鼓動を刻んでいた。

「俺と君との門出に、有象無象の思惑を乗せたくはない」

 有象無象、とはビジネス面でのお付き合いのある方々のことだろうか。

「まあ、考えていてくれ」
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