鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 そう言って彼は私から身体を離し、目を開く。その仕草さえとても優雅で爽やかに見えて、私はつい見惚れてしまった。ほんとうに、なんて素敵な人なんだろう。
 こんな人と結婚してしまっていいんだろうか。ドキドキしすぎて早死にしていしまいそう。

「そうだ、今度は」

 思いついたように玲司さんは言う。言葉の続きを待つ私の耳元に、彼はそっと唇を寄せた。

「今度は泊りがけでこよう」

 声に含まれる艶がすごい。そのままちゅっと耳に唇を押し当てられて、耳が蕩けそう。それほどの色気があった。耳殻が熱い。きっと真っ赤だろうそこを、玲司さんは、信じられないことに、ほんの少し、ちょっとだけ、小さく甘噛みをしてすぐに離れた。

 私は思わず耳をおさえ、ばっと彼を見る。
 耳に心臓があるみたいにドクンドクンと鼓動が聞こえる。

「あ、あ、あ、ああの」

 声が震えていた。きっと顔も真っ赤だ。
 そんな私を見て、玲司さんは余裕たっぷりの表情で頬を緩め、私に向かって手を伸ばす。
 視界が彼の手のひらいっぱいになったかと思いきや、その手は私の頭をぽんぽんと撫でた。

「本当に君は、見ていて飽きない」
「れ、玲司さん」
「悪かった。あまりにかわいくて、少し味見してしまった」

 そう言って小さく唇を舐め、笑みを深める。
 そんな彼の言動から、彼が求めているのがただの泊り――今までもあった出張などのビジネス的な宿泊――ではないことが、はっきりとわかる。
 意味を理解するにつれ、じわじわと歓喜とも羞恥ともいえない不思議な感情で胸がいっぱいになる。――求められていることが、嬉しい。私は膝の上でぎゅっと手を握り、そっと玲司さんを伺いながら思う。
 味見じゃなくても全然いいのに、って。

 ……いや違う。素直になろう。私がもっと、彼に近づきたいとそう思ってしまったのだ。


< 31 / 106 >

この作品をシェア

pagetop