鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
二章
【二章】side玲司
うちの秘書はかわいい。
俺は新幹線の横の席ですやすやと眠る愛おしい人を見下ろし、その綺麗な髪を指に巻き付けた。
そうしてひと房救い上げ、そっとキスを落とす。なにをされているのか知らない心春は、穏やかに目を閉じて夢の中だ。まったく、人の気も知らないで。
「それにしても、本当に気が付いていなかったんだな」
俺の小さなつぶやきは、新幹線がトンネルに突入した走行音でかき消された。
俺の、心春に対する恋愛感情、きっと彼女以外は皆気が付いていた。
母親にさえ『あなた、もしかして秘書の森下さんに片想いしてない?』と探りを入れてきたくらいだ。
最初はハラスメントになるのではと心配していたらしい。
だが、心春が俺にあまりにも信頼と敬愛を寄せてくれていたため、母親だけでなく俺の感情に気が付いていた周囲の人間ほとんどが俺たちのことを「交際しているのを隠している」、あるいは「ただ付き合っていないだけ」と認識していた。
「あれだけ好き好き言っておきながら、恋愛対象外はないだろ」
なんの夢を見ているのだか、ときおり瞼をぴくりとさせる心春に向かって呟く。
まさかお見合い相手を選出しようとしていただなんて。それを、結婚前提で交際を申し込もうとした席で言われるとは――まあ、それも心春らしくていいと思ってしまうほどに、俺は彼女に惚れ込んでいるのだ。
「落とすから心配ない」
ふ、と笑って彼女の左手薬指を撫でる。俺はこっそりと隠し持っていたアクセサリーケースから指輪を取り出した。あの日、彼女に渡す予定だったエンゲージリングだ。
それを彼女の薬指に嵌め、そうして手を握った。
柄にもなく鼓動がうるさい。どんな反応をするだろうか。
この世で唯一、俺の感情を大きく揺さぶる彼女は――笑って、くれるだろうか。
そんな彼女を俺に落とすのは、きっと正攻法じゃ無理だ。
あれだけわかりやすく、周囲の人間がみな気が付いてしまうほどに恋慕を示していたのに、自分は恋愛対象ではないとかたくなに信じ込んでいた。
いつか、その理由を教えてくれるだろうか。
綺麗でかわいくて魅力的な人なのに、どうしてか必ず自分を下げてしまう癖、除外してしまう思考の理由を。
そんな彼女だから、好きだと告げて押していくだけでは、きっと俺が本当に求めているものはもらえない。
好きだと告げれば、心春からも同じ言葉が返ってくるだろう。
けれどその「好き」は敬愛だけだ。
だからしばらく「好き」は封印することにする。
心春から俺と同じ感情が返ってくるよう誠心誠意努力して、惚れてもらって、それからきちんと伝えたい。
さらり、とまた心春の髪を撫でた。艶やかな黒髪だ。眠っている顔は、いつもより幾分幼く見えた。
「かわいいな、君は」
ぽつりと呟いた。
うちの秘書はかわいい。
俺は新幹線の横の席ですやすやと眠る愛おしい人を見下ろし、その綺麗な髪を指に巻き付けた。
そうしてひと房救い上げ、そっとキスを落とす。なにをされているのか知らない心春は、穏やかに目を閉じて夢の中だ。まったく、人の気も知らないで。
「それにしても、本当に気が付いていなかったんだな」
俺の小さなつぶやきは、新幹線がトンネルに突入した走行音でかき消された。
俺の、心春に対する恋愛感情、きっと彼女以外は皆気が付いていた。
母親にさえ『あなた、もしかして秘書の森下さんに片想いしてない?』と探りを入れてきたくらいだ。
最初はハラスメントになるのではと心配していたらしい。
だが、心春が俺にあまりにも信頼と敬愛を寄せてくれていたため、母親だけでなく俺の感情に気が付いていた周囲の人間ほとんどが俺たちのことを「交際しているのを隠している」、あるいは「ただ付き合っていないだけ」と認識していた。
「あれだけ好き好き言っておきながら、恋愛対象外はないだろ」
なんの夢を見ているのだか、ときおり瞼をぴくりとさせる心春に向かって呟く。
まさかお見合い相手を選出しようとしていただなんて。それを、結婚前提で交際を申し込もうとした席で言われるとは――まあ、それも心春らしくていいと思ってしまうほどに、俺は彼女に惚れ込んでいるのだ。
「落とすから心配ない」
ふ、と笑って彼女の左手薬指を撫でる。俺はこっそりと隠し持っていたアクセサリーケースから指輪を取り出した。あの日、彼女に渡す予定だったエンゲージリングだ。
それを彼女の薬指に嵌め、そうして手を握った。
柄にもなく鼓動がうるさい。どんな反応をするだろうか。
この世で唯一、俺の感情を大きく揺さぶる彼女は――笑って、くれるだろうか。
そんな彼女を俺に落とすのは、きっと正攻法じゃ無理だ。
あれだけわかりやすく、周囲の人間がみな気が付いてしまうほどに恋慕を示していたのに、自分は恋愛対象ではないとかたくなに信じ込んでいた。
いつか、その理由を教えてくれるだろうか。
綺麗でかわいくて魅力的な人なのに、どうしてか必ず自分を下げてしまう癖、除外してしまう思考の理由を。
そんな彼女だから、好きだと告げて押していくだけでは、きっと俺が本当に求めているものはもらえない。
好きだと告げれば、心春からも同じ言葉が返ってくるだろう。
けれどその「好き」は敬愛だけだ。
だからしばらく「好き」は封印することにする。
心春から俺と同じ感情が返ってくるよう誠心誠意努力して、惚れてもらって、それからきちんと伝えたい。
さらり、とまた心春の髪を撫でた。艶やかな黒髪だ。眠っている顔は、いつもより幾分幼く見えた。
「かわいいな、君は」
ぽつりと呟いた。